玄関のシリンダー錠は、私たちの暮らしを守る最後の砦です。しかし、その砦を破ろうとする侵入犯罪の手口も、日々巧妙化しています。シリンダー錠の防犯性を考える上で、避けては通れないのが「ピッキング」という不正解錠の手口です。ピッキングとは、鍵穴に特殊な工具(ピックとテンションレンチ)を差し込み、シリンダー内部のピンを巧みに操作して、まるで正規の鍵があるかのように解錠してしまう技術です。このピッキングに対する耐性が、シリンダー錠の防犯性能を測る上で、最も重要な指標の一つとなります。では、どのようなシリンダー錠が危険で、どのようなものが安全なのでしょうか。まず、前述の「ディスクシリンダー」や、一部の簡易な「ピンシリンダー」は、内部構造が比較的単純なため、ピッキングの格好の標的となります。熟練した者であれば、数分、場合によっては数十秒で解錠されてしまうリスクがあります。これに対し、現代の高性能シリンダー錠は、様々なピッキング対策が施されています。例えば、「ディンプルシリンダー」は、ピンの数が多く、配置も三次元的に複雑なため、全てのピンを同時に正しい位置に揃えることが非常に困難です。さらに、シリンダー内部には「アンチピッキングピン」と呼ばれる特殊な形状のピンが組み込まれており、不正な工具で操作されると、あえて引っかかって動かなくなるなど、解錠を妨害する仕組みになっています。また、ピッキングだけでなく、ドリルなどで鍵穴そのものを物理的に破壊する「鍵穴壊し」という手口もあります。これに対しては、シリンダー内部に超硬金属の部品を埋め込むことで、ドリルの刃が立たないようにする対策が取られています。これらの厳しい防犯基準をクリアした製品には、「CPマーク(防犯性能の高い建物部品の目印)」が付与されています。シリンダー錠を選ぶ際は、このCPマークの有無を確認することが、高い防犯性を確保するための、一つの確かな目安となるでしょう。