ホームセンターや100円ショップなどで、驚くほど安価に手に入るダイヤル式南京錠。手軽に使えるため、つい購入してしまいがちですが、その安さの裏には、セキュリティ上の大きなリスクが隠されていることを理解しておく必要があります。「大切なものを守る」という本来の目的を考えた時、安価な南京錠を選ぶという行為は、実は非常に危険な選択なのです。安価な南京錠が危ない理由は、その「構造の単純さ」と「素材の脆弱さ」にあります。まず、構造の単純さです。これらの製品の多くは、内部のロック機構が非常に簡素に作られています。そのため、前述したような「テンションをかけながらダイヤルを回し、感触で当たりを探る」という解読方法に対して、極めて弱いという特徴があります。内部の部品の精度が低く、いわゆる「遊び」が大きいため、正しい番号に近づいた時の感触の変化が、熟練者でなくとも分かりやすいのです。時間をかければ、特別な道具がなくても、比較的容易に開けられてしまう可能性があります。さらに深刻なのが、素材の脆弱さです。コストを抑えるため、本体やシャックル(U字の金具)には、強度の低い亜鉛合金などが使われていることが多くあります。これらの素材は、少し大きめのボルトクリッパーや、バールのような工具を使えば、いとも簡単に切断・破壊することができてしまいます。侵入のプロから見れば、それは「鍵」ではなく、ほんの数秒で突破できる「気休め」の障害物でしかありません。大切な工具箱や、旅行用のスーツケース、あるいは立ち入ってほしくない場所の施錠に、このような脆弱な鍵を使っていては、全く意味がないのです。もちろん、全ての用途で高価な南京錠が必要なわけではありません。しかし、もしあなたが守りたいものが、本当に価値のあるものであったり、他人のプライバシーに関わるものであったりするならば、鍵にかけるコストを惜しむべきではありません。価格と防犯性能は、多くの場合、比例します。信頼できるメーカーの、しっかりとした作りの南京錠を選ぶこと。それが、あなたの資産と安全を守るための、最も基本的な投資なのです。