これは、あくまで緊急避難的な、最後の手段として知っておくべき知識です。ベランダや庭に締め出されてしまい、他に家に入る手段が全くなく、かつ助けを呼ぶこともできない。そんな絶体絶命の状況において、もし手元にマイナスドライバーのような、薄くて硬い工具があれば、窓を開けられる可能性があります。しかし、この方法は、サッシや鍵を傷つけるリスクが非常に高く、また、防犯上の脆弱性を示すものでもあるため、その原理と危険性を十分に理解した上で、慎重に検討する必要があります。この方法のターゲットは、クレセント錠そのものではなく、「サッシとサッシの重なり合う部分」です。多くの引き違い窓は、二枚のサッシが中央で重なり合う構造になっています。そして、内側のサッシと外側のサッシの間には、気密性を保つためのわずかな隙間が存在します。この隙間に、マイナスドライバーの先端を差し込むのです。差し込む位置は、クレセント錠の少し下あたりが狙い目です。ドライバーを隙間にねじ込んだら、テコの原理を応用します。ドライバーの柄を外側に倒すように力を加え、内側のサッシを、内側から外側へ(つまり、開ける方向とは逆へ)とこじります。同時に、もう片方の手で、外側のサッシをスライドさせようと試みます。この動作により、クレセント錠のフックと受け金具のかみ合いが、物理的にわずかに外れる瞬間が生まれることがあります。その一瞬の隙を突いて、サッシをスライドさせることができれば、ロックを突破できる、というのがこの方法の理屈です。しかし、これは全ての窓で成功するわけではありません。最近の防犯性の高いサッシは、この中央の隙間が非常に狭く、ドライバーを差し込むこと自体が困難です。また、無理な力を加えれば、サッシのフレームが変形したり、塗装が剥げたりする可能性が非常に高いです。あくまで「どうしようもなくなった時の最終手段」として、知識の片隅に留めておくべき、諸刃の剣のテクニックと言えるでしょう。