物置の奥から出てきた、古びて錆びついたダイヤル式南京錠。それは、祖父が大切にしていた道具箱に付けられていたものでした。祖父が亡くなってから、もう何年も開けられることなく、そこに眠っていたのです。もちろん、暗証番号など誰も知りません。ただの鉄の塊として捨ててしまおうかとも思いましたが、もしかしたら、中には祖父の思い出の品が入っているかもしれない。そんな思いがよぎり、私はその南京錠を開けてみることにしました。インターネットで調べた解読方法を頼りに、シャックルにテンションをかけ、錆び付いて回りにくくなったダイヤルを、一つ、また一つと、祈るような気持ちで回していきます。指先に全神経を集中させ、内部からの微かな反応を探る。それは、まるで、寡黙だった祖父の心と対話しているかのような、不思議で、そして静かな時間でした。「4」の数字で、わずかにダイヤルが重くなった。「7」で、カチリと小さな音がした。そして、最後のダイヤルを「2」に合わせた瞬間、それまで頑として動かなかったシャックルが、ギシリという音を立てて、ゆっくりと持ち上がったのです。まるで、長い眠りから覚めたかのように。息を飲んで、埃っぽい道具箱の蓋を開けると、そこには、使い込まれて手油で黒光りしたノミやカンナと共に、一枚のセピア色の写真が、大切そうに布に包まれて入っていました。写っていたのは、まだ若く、はにかんだような笑顔を見せる、祖母と祖父の姿でした。おそらく、誰にも見せることなく、祖父が一人でこっそりと眺めていた、宝物だったのでしょう。開かなくなった南京錠は、単なる故障した道具ではありませんでした。それは、持ち主の秘密や、大切な思い出を、誰にも触れさせることなく、長い時間、静かに守り続けていた、忠実な番人だったのです。私は、その南京錠と、中にあった写真を通じて、今まで知らなかった祖父の一面に触れることができたような気がしました。ものを守るということの、本当の意味を、少しだけ理解できたような、そんな出来事でした。